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はじめに

前回はこのような内容でした。



今回は主権国家体制の成立についてです。主権国家体制はどんな経緯で誕生したんでしょうか?
それでは一緒にみていきましょう!
MQ:主権国家体制はどんな経緯で成立したのか?
主権国家体制とは?
前回の[11-3.1]イタリア戦争で説明したように、近世(15世紀末~)に入ってからのヨーロッパでは、オスマン帝国の脅威が迫る中、海外進出が進み(大航海時代)、各国が勢力圏を競い合うようになりました。

加えて、絶対的権威だったカトリック教会も、[7-3.2]教皇の権威低下での内容に加えて、ルネサンスや宗教改革など、カトリック教会の権威に疑問を持つような運動が起こったことで、さらにカトリック教会の権威が揺らいだ時期でもありました。
こうした出来事によって、ヨーロッパでは各国が自国の利益を優先して、同盟や戦争を繰り返すカオス(混沌)な時代が訪れることになりました。

その代表例が前回のイタリア戦争でしたね。

そうしたヨーロッパ各地で戦争が起こるようになったことで、ヨーロッパ諸国は群雄割拠を生き残るために、長期戦に耐えられる「富国強兵」をする必要に迫られました。

軍事革命が起こったこともあって、火器にかける戦費は膨らむ一方だったんです。
当時のヨーロッパは封建社会だったので、国家は諸侯たちの領土で形成され、その中の大諸侯が国王(リーダー)として諸侯たちと連携しながら運営をしていくスタイルが一般的でした。

「封建制=地方分権的な国家」と言えますね。
しかし、この諸侯の小国家が集まった王国では、当然、統治の仕方は諸侯によってバラバラでした。
なので、軍事費や兵士の調達なども足並みをそろえることは難しく、国家運営の妨げになってしまう側面があったんです。
そこで国王はこのバラバラな統治体制を統一して、中央(国王)に権力(決定権)を集中させる、中央集権体制を築こうとしたんです。
このように、王国内の諸侯や住民を統制して、国王による統治でまとめようとする国家を主権国家と呼びます。

主権国家の特徴としては以下の通りです。
・国境がはっきりしている。

中世では封建領主が複数の君主と主従契約を結んでいたので、国家の領域が曖昧だったんです。
でも軍隊を維持するための徴税をする際に、「どこまでが自分たちの領土か。」というのを明確に決める必要になったんです。
・国王が国内の法律や軍隊をコントロールする主権(政治の最終決定権)を持っている。
・他国や教会に統治を干渉されない。

日本では主権は「国民全員」が持っていますが、近世ヨーロッパの主権国家では主権は「国王」のみが持っていたことに注意しておきましょう。
このような特徴を持つ主権国家によって形成されたヨーロッパの国際秩序を、主権国家体制と言います。
この主権国家体制は16~17世紀にかけて成立していきました。

絶対王政
成立
そしてこの近世ヨーロッパに登場した主権国家の典型例が、絶対王政と呼ばれるものでした。
絶対王政とは、国王が絶対的な権力を握り、中央集権的な統治をする体制のことをいいます。

簡単に言うと、「国王の決定は絶対!」という王様ゲームのような統治体制です。
国王に中央集権化するといっても、いきなり国王が

俺が全て決める!俺の決定は絶対だ!
と言っても、

なに勝手なことを言っている!ふざけるな!
と反発を買いそうですよね。
なので、この絶対王政を築いていく過程では、国王の「策略」と「スポンサー」の存在があったんです。

●国王の策略「諸侯と聖職者の取り込み」
中世後半では、十字軍の失敗や黒死病(ペスト)の流行、百年戦争や貨幣経済の発展などによって、領土や資産を失って没落してしまう諸侯や聖職者たちが現れます。
こうした封建領主たちの力が弱くなったことで、権力を拡大させたのが国王だったんです。
国王は権威が落ちた諸侯や聖職者たちを保護することで、国王の宮廷に仕える家臣(貴族)にしてしまい、諸侯たちの権力を抑制していきました。

要は、それまで協力する関係だったのが、自分(国王)の子分にしちゃったんです。
貴族や聖職者は、国王に忠誠を誓うことで免税特権などの恩恵を受けて保護してもらうことができ、官僚や軍人として登用されて、国王の統治を支える存在になっていきました。

貴族の身分や領土が消えたわけではなく、国王に直接仕える立場に変わっていったんですね。国王に依存させるために免税特権という甘い蜜を与えたんです。
貴族や聖職者を絶対王政の駒に利用したわけです。

●スポンサーの存在「ブルジョワジー」
そしてもう一つ、絶対王政を支えたのがスポンサーの存在です。
そのスポンサーというのが、当時、商業圏の拡大によって莫大な資産を築いた大商人、すなわちブルジョワジー(裕福市民)と呼ばれる人たちでした。

封建領主から独立したい商業都市を国王が保護する代わりに、スポンサーになることを約束していたんです。詳しくは[7-3.1]封建社会の崩壊をご覧ください。
ちなみに、このブルジョワジーには商人ギルド(組合組織)などの団体も含まれていました。
国王はブルジョワジーたちに経済的な特権(営業・交易の独占など)を与えて保護する代わりに、資金提供をしてもらう協力関係を築いたんです。
こうして国王は、新興勢力であるブルジョワジーをスポンサーに付けたことで、潤沢な資金力で、中央集権に必要な官僚組織と常備軍を整備・維持することができたんです。
こうして権威を高めた国王は、諸侯と聖職者を取り込む「策略」とブルジョワジーを取り込んだ「スポンサーの存在」によって、国民を直接統治する絶対王政を築くことができたというわけなんです。

SQ:絶対王政と封建制度の違いとは?

では、この絶対王政はそれまでの封建制度とどのように違っていたんでしょうか?支配の仕組みに注目してみてください。
以上のことから、まとめるとこんな感じですかね。
封建制度では、国王は各地の領主に支配を任せる「間接的支配」を行っていたが、絶対王政では官僚や常備軍を用いて国民を直接統治する「中央集権的支配」が目指された。

成立した結果
ヨーロッパで絶対王政が成立した結果、国王は都市に定住するようになり、行政機能が集中した首都がヨーロッパ各地で成立するようになりました。

中世の封建社会では、各地の諸侯(領主)がそれぞれの土地を支配していました。
国王自身も領地を巡って移動しながら統治していたことが多く、首都に定住する必要性がなかったそうです。

SQ:国王が首都に定住するメリットとは?
では、なぜ国王は首都に定住するようになったんでしょうか?
そのメリットについて考えてみましょう。
①中央集権の強化
絶対王政では、国王が官僚と常備軍を使って、国家をまとめて統治しようとしてましたよね。
そのためには、政治の中心地=首都に常に滞在して、地方に派遣した官僚に命令を出したり、情報を集めたりしながら、政策を実行する必要があったんです。

命令系統のトップが国内とウロウロしていたら、命令に時間がかかりますからね。命令系統は固定しておかないと。
②象徴としての宮殿
豪華な宮殿を首都または近郊に建てることで、国王の権威をわかりやすく伝えることができました。
宮殿はただの国王の住居ではなく、政治の舞台や権威の象徴でもあったんです。

フランスのヴェルサイユ宮殿がわかりやすいですね。
③貴族の監視と統制
国王が首都に定住することで、地方に分散していた貴族(家臣)たちを宮廷に呼び寄せて、常に監視することができました。
これによって貴族たちを国王に依存させることができて、封建社会の地方分権を崩して、中央集権化する方法として重要だったんです。

以上の①~③をまとめてみましょう。
首都に定住することで、中央集権を強化し、権威を示す宮殿を築き、貴族を監視・統制することで国家統治を安定させることができる点。

こうした絶対王政下での首都の出現によって、その中心だった宮廷では華やかな宮廷文化が花開くことになりました。
また、先ほどから出ていた常備軍や、中央から地方に派遣された官僚たちは、ヨーロッパでは新しい存在として、絶対王政を支えることになりました。

それまで中世ヨーロッパの軍事力は傭兵によって支えられていましたからね。
その時々によってムラがでる傭兵よりも、貴族や庶民からなる常備軍を置いたほうが対応が早く、コスパも良かったんです。

まとめ
MQ:主権国家体制はどんな経緯で成立したのか?
戦争の激化や教会権威の低下を背景に、国王が諸侯の力を抑えて中央集権を進め、経済力を持つブルジョワジー(裕福市民層)の支援を受けて成立した。16〜17世紀にかけて、国王が官僚や常備軍を使って統治権を独占し、他国や教会の干渉を受けない体制が確立された。

今回はこのような内容でした。

次回は、主権国家体制下でのスペインとオランダについてみていきます。スペインは他国とどのような関係を築き、オランダはどのような経緯で独立したんでしょうか?
それでは次回もお楽しみに!
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