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はじめに

前回はこのような内容でした。


今回はアメリカ合衆国の大国化についてです。アメリカの大国化において、「移民」はどんな役割を果たしたんでしょうか?
それでは一緒にみていきましょう!
MQ:アメリカ合衆国の大国化において、「移民」はどんな役割を果たしたのか?
西部開拓と農業大国化
南北戦争の最中、アメリカ連邦政府(当時は北部)は西部開拓を促進するためにホームステッド法を制定しました。
これは21歳以上の男女に公有地を貸し与えて、5年間定住して開拓すれば160エーカーの土地を無償で与えるというものでしたよね。

大統領のリンカンは西部農民の支持を得るために、こんな大胆な政策をしたんでしたよね。
これによって、土地を求める人々が、大量に西部へ移住していくことになりました。
その後、多くの人が入植した西部では、広大な土地を活かして小麦の栽培や牧畜業をおこない、すごい勢いで発展していきました。
これらの農産物は東部の市場に大量に供給されるようになり、さらにヨーロッパへの輸出もおこなわれるようになっていきました。
その結果、アメリカは19世紀末には世界最大級の農業生産力を持つ国になっていきました。

ちなみに、現代でもアメリカの小麦生産は世界4位(2022)、畜産(食肉総生産量)は世界2位(2024)を誇っています。

フロンティアの消滅と先住民社会の崩壊
フロンティアの消滅
19世紀のアメリカでは、白人社会の外側に広がる未開拓地を「フロンティア(開拓の最前線地域)」と呼んでいました。
そこは“文明と未開”の境界線とみなして、開拓者たちはこの境界を押し広げながら西へ進んでいき、農地を切り開いて町をつくり、鉄道を敷いて、西漸運動を拡大していきました。
こうした動きは「開拓者精神」として語られ、アメリカの民主主義や自立心を育てたと考えられています。

西部に入植した人々は、自分の身は自分で守る必要があったので、銃の所持が当たり前になっていきました。
しかし、19世紀末になると領土はすでに太平洋岸まで達して、未開拓地はもうほとんど残っていませんでした。
1890年の国勢調査では、人口密度の低い地域が連続して存在しないため、荒野と開拓地の境界を示すフロンティアの消滅が宣言されました。
これは、アメリカが「未開の土地を開拓する国」から、「国内の問題と向き合う成熟した国」へと移行したことを示していました。
同じ時期には巨大企業が台頭するようになり、国内市場の競争が激化していきます。
土地の余裕がなくなったことで、アメリカは新たな市場や資源を海外に求めるようになっていき、海外に進出していく帝国主義的な政策が強まっていくことになりました。

先住民社会の崩壊
この西部開拓(西漸運動)は、もともとそこに住んでいた先住民の社会にも壊滅的な影響を与えました。
白人入植者の増加や鉄道建設によって土地が奪われていき、狩猟を支えていたバッファローやバイソンを乱獲して数が激減し、生活の土台を急速に失っていきました。

当時の鉄道会社では、走行の邪魔になるバイソンの群れを、乗客が蒸気機関車から猟銃で撃つイベントが開催されていたそうですよ。
その象徴が、1890年のウーンデッド=ニーで起きた悲劇でした。
アメリカ軍に抵抗していた先住民約350人が包囲されてしまい、武装解除をしている途中に混乱が起きて、アメリカ軍が女性や子どもを含む約300人の先住民を殺害してしまう事件がおきます。
先住民側はこの出来事を「虐殺」と呼び、これを最後に先住民による集団での武力抵抗は終わりを迎えることになりました。
生き残った人々は保留地に移住させられ、伝統的な先住民文化は失われていくことになりました。

先住民の政治的権利の獲得も遅れていき、市民権は1924年、投票権は第二次世界大戦後になってようやく認められることになります。

その後、ドーズ土地割り当て法というものが制定されます。
これは、先住民を自営農民として「市民化」するための法律でした。
しかし実際には、先住民が所有している土地を個人単位に細分化して、余った土地を白人入植者に売却するという仕組みだったんです。

要は、先住民から土地を奪うための政策だったんです。
この政策によって、入植白人に土地を奪われた先住民たちは、さらに生活が困難になっていき、経済的に困窮していくことになりました。

フロンティアの終わりが示すもの
SQ:西部開拓はどのようにアメリカの社会構造を変化させたのか?
フロンティアの消滅は、アメリカ社会の構造を大きく変えることになりました。
・土地の余裕がなくなり、社会問題が国内に蓄積
・巨大企業の台頭と海外進出への転換
・先住民社会が武力・制度の両面で徹底的に抑圧
「土地の余裕がある未成熟な社会」から「国内問題と向き合い、海外へ進出する成熟社会」へと転換し、同時に先住民社会を破壊した。

大陸横断鉄道の完成と移民労働者
大陸横断鉄道の完成
西部開拓(西漸運動)の発展を支えたのは、「開拓者精神」以外にも、交通と通信の整備がありました。
その中でも特に象徴的だったのが、1869年に最初に完成した大陸横断鉄道です。
南北戦争のさなか、議会が主導して、太平洋岸まで鉄道を伸ばすための法律が制定されて建設が進められました。

鉄道建設は、東部から西へ向かうユニオン=パシフィック社と、西部から東へ向かうセントラル=パシフィック社によって進められました。
ちなみに、ユニオン=パシフィック社は現在も残っていて、アメリカ最大級の貨物鉄道会社として営業を続けているんですよ。
このようにして誕生したのが、アメリカ大陸を横断する大陸横断鉄道でした。
この鉄道の完成によって、東部と西部の距離は一気に縮まることになり、物資運搬の時間が短くなり、人の移動もずっと楽になりました。
さらに、同時に電信が普及したことで、情報が大陸中に一瞬で伝わるようになり、アメリカ全体がひとつの大きな市場として結びつくことになりました。
さらに鉄道と電信は、南北戦争後の工業化を支える中心的な仕組みとなっていき、国内の資源開発を進めて、農業や工業が地域ごとに役割を分担して発展していく原動力になっていきました。

鉄道建設を支えた移民労働者
しかし、この巨大なプロジェクトの裏側には、過酷な労働に従事した移民たちの存在がありました。
西から鉄道を建設していたセントラル=パシフィック社が直面した最大の課題が、山脈を超えることでした。
海抜2000メートルを超える峠を抜ける工事は、爆破作業や崖沿いの線路敷設など、命を落としかねない危険な作業の連続でした。
これらの難しい工事を支えたのが、中国系移民の労働者たちでした。
彼らは「苦力(クーリー)」と呼ばれて、延べ1万2千人もの人々が鉄道建設で雇われました。
全労働者の9割を占めたとされる中国系移民は、白人労働者とは違って宿舎や食料の支給もなく、テントで野営しながら自費で食料を調達するという厳しい待遇の中で働きました。
しかし、この中国系移民たちのおかげで、この難工事の区間を完成させることができたんです。
一方、東から鉄道の建設を進めていたユニオン=パシフィック社の建設には、南北戦争の退役軍人やアイルランド系移民が多く雇われていました。
アイルランドではジャガイモ飢饉が起きて、貧困から逃れるために年間100万人規模の移民がアメリカへ渡っていました。
彼らは低賃金の労働に従事しながら、アメリカ都市の下層社会を形成していきました。

アイルランド人はプロテスタント中心のアメリカ社会とは異なるカトリック文化を持つため、しばしば差別の対象にもなりました。

大陸横断鉄道の西部への影響
ロング=ドライブ
大陸横断鉄道は、単に人と物を運ぶだけではなく、西部社会そのものを変えていきました。
グレートプレーンズでは牧畜業が広がり、テキサスの牧場から数万頭の牛をカウボーイが追い立てて鉄道駅まで運ぶ「ロング=ドライブ」が始まります。

西部劇に出てくる「カウボーイ」はこういう役割があったんですね。
こうして、鉄道によって牛肉の市場が拡大していき、大きな利益を生むようになっていきました。
しかし、過剰生産や運賃をめぐる農民との衝突が深刻化していき、1880年代後半にはロング=ドライブは姿を消していきました。

それでも、鉄道網の発展が西部への移住を促して、資源開発を進めていき、アメリカの工業化を加速させたことは間違いありません。鉄道は「西部をアメリカの一部に組み込む」ためのインフラだったんです。

移民の影響
SQ:移民の大量流入はアメリカの産業発展にどのような影響を与えたのか?
さきほど説明した以外にも、19世紀のアメリカには、ヨーロッパ各地から大量の移民がやってきました。
アイルランド、ドイツ、イタリア、ロシア、そして中国など、出身地も文化も宗教も多様な人々がアメリカへ渡り、19世紀の間に人口は10倍以上に増加します。

この時、開国した日本(江戸時代末期)からも仕事を求めて、ハワイやアメリカ西岸で肉体労働に従事した移民がたくさんいたんですよ。
ニューヨークなどの大西洋沿岸都市は巨大都市へと成長していき、移民たちは工場労働や建設現場など、低賃金の非熟練労働を担いました。
この膨大な労働力が、アメリカの産業発展を支えていたんです。
こうして産業のあらゆる分野で移民労働者が不可欠になっていき、彼らがいなければ急速な工業化や西部開拓は到底実現しなかったとさえ言われています。

一方で、移民の文化や宗教はアメリカの主流とは違うことが多ったので、排斥運動もおこなわれるようになっていきました。
中国系移民は「苦力(クーリー)」として差別され、アイルランド系移民はカトリックであることから偏見の対象にされてしまいました。
こうした差別感情は、20世紀初頭の移民制限法にもつながっていき、アメリカ社会の「受け入れと排除」を象徴するようになっていきました。
それでも、移民の中には事業に成功して巨額の富を築く者も現れ、「アメリカは一代で成功できる国」というイメージも世界に広まっていきました。

まさに「アメリカンドリーム」ってやつですね。
こうして、移民はアメリカの産業の発展を支えただけじゃなく、アメリカ合衆国という国の価値観を作っていったんです。

アメリカの急速な産業発展を可能にした膨大な労働力を供給し、工場生産・都市建設・西部開拓を大きく推進した。
重工業化と独占企業の台頭
さきほど説明した通り、大陸横断鉄道が完成すると、合衆国全体が一つの巨大市場として動き始めました。
鉄道を敷くには膨大な量の鉄鋼が必要でした。
線路、橋梁、車両、駅舎、機械設備
どれも鉄なしには成り立たなかったので、鉄鋼の需要が急速に増えていきました。
さらに、鉄道が広がることで鉱産物の輸送も効率化されていき、工場での生産量も増えていきました。
こうして鉄鋼・石炭・石油を中心とした重工業が急速に発展していき、アメリカは19世紀末にはイギリスやドイツを超える世界最大の工業国へと成長していくことになりました。

しかし、鉄道会社や巨大企業は、利益を最大化するために運賃や倉庫料を引き上げいきました。
特に西部や南部の農民にとって、農産物を市場に運ぶための鉄道運賃は生活に直結する問題でした。
農民は「企業が自分たちを搾取している」と強く反発するようになり、これをきっかけに政治運動をおこなうようになっていきました。

労働問題と貧富の格差拡大
SQ:アメリカの大国化は国内の社会問題をどのように生み出したのか?
アメリカ労働総同盟(AFL)の結成
工場で機械工業が急速に広がると、労働者の働き方は大きく変化していきました。
熟練工の技術に依存していた時代から、機械を扱うだけでいい非熟練労働者が大量に雇われる時代になっていきました。
こうした変化は、労働者の立場を弱めていくことになり、賃金の低下や長時間労働を招きました。

似たようなことがイギリス産業革命でもありましたね。
その中で、熟練工たちは自らの待遇を守るために組織化を進めていき、結成されたのがアメリカ労働総同盟(AFL)でした。
※以後、「AFL」と表記
AFLはアメリカで初めての全国的な労働組合組織で、それまでの職業別組合や州・都市の組合連合の上位に立つ団体として整備されました。

AFLの特徴は次の通りです。
・熟練労働者の利益を守ることを最優先したこと
労働者全体の団結というより、職能を持つ労働者の交渉力を高めることを目的にしていました。
・政治活動を否定したこと
これは二大政党のどちらかに肩入れするよりも、両党に労働者の要求を競わせる方が効果的だと考えていたためです。

一方で、非熟練労働者の多くは移民であり、より過酷な環境に置かれていました。
移民はAFLから排除されることも多かったので、別の組織をつくって、ストライキやデモを通じて自らの権利を求めていきました。

こうした二層構造は、アメリカの労働運動を複雑にしていくことになります。
富の集中と格差の拡大
工業化の波に乗って巨額の富を築いたのが、先ほど紹介した「産業王」と呼ばれる人々でした。
鉄鋼業や金融業を支配して、企業合併や巨大資本の形成を進めた彼らは、アメリカの経済構造を大きく変えていきました。
しかし、その繁栄の裏側で、労働者の生活は依然として厳しいままでした。
長時間労働、低賃金、危険な作業環境は日常的であり、労働者の家庭は不安定な生活を余儀なくされ、都市には貧困層が集まってスラム街が広がっていきました。
このように、アメリカは大国化の裏で、「激しい競争と大きな格差を抱える社会」へと変化していったんです。
工業化と巨大資本の進展によって労働者の分断・移民労働者の過酷な処遇・富の集中と都市貧困を生み出し、深刻な社会問題を拡大させた。

まとめ
MQ:アメリカ合衆国の大国化において、「移民」はどんな役割を果たしたのか?
A:あらゆる分野で膨大な労働力を提供し、アメリカの急速な拡大と産業発展を可能にした。多様な人々の流入が国の価値観と社会構造を形づくり、アメリカを世界的な大国へ押し上げる原動力となった。

今回はこのような内容でした。

次回からは、19世紀の欧米文化と市民文化についてみていきます。その担い手や中心地はどのように変化していったんだろうか?
それでは次回もお楽しみに!
「愚者は経験から学び、賢者は歴史に学ぶ。」by ビスマルク
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