世界史を手軽に学びたい方に向けて授業形式でブログ記事を書いています。復習や予習の際に使いやすい内容になっています。「問い」の設定や記事の最後には使用したパワポもダウンロードできます!それではスタンダード世界史探究をどうぞ!※あくまで1例なので、「MQ」や「SQ」、スライド等は自由にアレンジしてください。
はじめに
前回はこのような内容でした。
今回から久々のインドを中心とした南アジア文明ですね。今回はそれまで支配の中心だったバラモン教に変化がおきます。それはいったいどんな変化だったのか?
それではみていきましょう!
MQ:仏教とジャイナ教にはどのような共通点があるのか?
今回の時代はここ!
マガダ国の台頭
南アジアではヴェーダ時代と呼ばれる、ガンジス川上流を中心とした部族制社会が広がっていましたね。
しかし、部族の統合や混血が進んでいき、部族制社会が終わって社会の中心も人口増加などにより、より肥沃な中流域や下流域に移動していきました。
それによってヴェーダ時代は終わりを迎えます。
人口増加や文明の発展によっておこる問題は何だったか覚えていますか?
必要になる食糧やモノが増える一方、富には限度があるので、それを巡って争いが起きることです。
前6世紀には、ガンジス川中流・流域で城壁で囲まれた都市国家が10以上も現れて覇権を争います。
その中でも商工業と地中海世界との交通の要所を抑えたコーサラ国が有力となっていました。
コーサラ国の商工業と交通に要所は、綿織物の産地であったベナレス。
しかし前4世紀になると、東の大国マガダ国が勢力を拡大してコーサラ国を支配して覇権を握りました。
マガダ国の中心地は穀倉地帯であったため食糧が豊富であったこと、鉄や銅などの貴金属の産地でした。
これらによって巨大な軍事力や経済力を支えていたことで、大国へと成り上がっていったわけですね。
インド象を使った戦略も考案したともいわれています。そりゃマガダ国は強いわけです。加えてコーサラ国の商工業地帯も押さえたので無敵ですね。(笑)
ウパニシャッド哲学の成立
SQ:ウパニシャッド哲学はどのような経緯で成立したのか?
都市国家の統一が進んだことと、豊かな農業生産を基盤に都市同士での交易などで商工業が発展していきます。
その利益から経済力を得て存在感を増したのが、主に行政に従事していたクシャトリアと商工業に従事していたヴァイシャの階級の人々でした。
それまでは聖職者階級のバラモンが幅を効かせていました。
しかし、都市国家の発展で力をつけたクシャトリアと商工業で力をつけたヴァイシャが社会で影響力を増していきます。
要は新たな富裕層(クシャトリア、ヴァイシャ)が現れて、社会でバラモンの権威時代からの変化が起きていました。
身分制という意味では社会システムは異なりますが、ヨーロッパではブルジョワジー(裕福市民)と呼ばれていましたね。
当時、バラモンは祭礼を重視しすぎたあまり形骸化してしまい、祭式至上主義だと批判される事態に陥っていました。
形骸化・・・中身がなく、外側だけが残っている状態。
単にバラモンは祭礼をとり行うだけ役割に成り下がっていたわけです。
なので、その形式的なバラモン教を見直して、真理を探究しようとする改革運動が起きます。
その運動で誕生したのがウパニシャッド哲学なんです。
ウパニシャッド哲学とは、端的にいうと・・・
内面の思索を重視して、いかに輪廻転生(りんねてんせい)から解脱(げだつ)できるか、を説いた哲学的思考。
難しい単語があってこれでは初めての方はわかりずらいですね。丁寧に解説していきましょう。
輪廻転生
当時の南アジア(特にインド)は、カースト(またはヴァルナ制)の身分が死ぬまで変わることはなく、死後生まれ変わって(転生)も、また違う身分として人生を送るサイクル(輪廻)があると言われていました。
これが輪廻転生ですね。 ※輪廻転生は必ずしもヒトになるとは限りません。
しかし、人生は苦悩に満ちているため(特に身分制のせいで・・・)、人々は「この輪廻転生から解放されたい。」と考えるようになります。
解脱
そして、この輪廻転生から脱却することを解脱(げだつ)といいます。
解脱とは、何かしらの束縛(この場合だと輪廻転生)から解放されることを意味する言葉です。
内面の思索
ウパニシャッド哲学では「この世の真理とは何か。」について探究しました。
それによると、、、
①ブラフマン(梵、ぼん)・・・宇宙の本体であり、全てのものがそこから生まれ、最後にそこに帰る物質の根源。
②アートマン(我)・・・人間が存在する本質。人間真理。
この①・②が同一であること(梵我一如、ぼんがいちにょ)を認知したときに輪廻転生から解脱できると説いたんですね。
ブラフマン = アートマン → 梵我一如を認知 → 解脱
簡単にいうと、
この世界は全て宇宙から生まれたから、その宇宙と精神で繋がって一緒になれば解脱できます。
という感じでしょうか。要は解脱には儀式じゃなくて悟りを開く修行が必要だよ、ということです。
抽象的で難しいですね(笑)。私も概念しかわかっていないので、興味のある方はぜひ調べてみてください。
バラモン教がこの「輪廻転生からの解脱」という考えを生み出したことで、後の新宗教の成立に大きな影響を与えることになります。
2つの新宗教
前に述べたクシャトリアとヴァイシャの経済力が拡大したことで、バラモンをトップとするバラモン教やヴァルナ制を否定するような思想が出てきます。
仏教
成立まで
その一つが仏教です。日本ではおなじみの宗教だと思います。
紀元前500年ごろ、一国の王子だったクシャトリアのガウタマ=シッダールタは何不自由ない生活を送っていましたが、「生・老・病・死」の四苦に悩むようになります。
そしてその苦しみから解放されるために、王子の身分を捨てて国を飛び出して修行にのめり込みました。
断食などの苦行を6年間も続けましたが、悟りを開けずにいました。
断食で衰弱しているときに、ある一人の娘にミルクがゆを飲ませてもらった際に、「食欲」が無くなったことから苦行が悟りを開く方法ではないという考えに変わり、菩提樹のもとで瞑想を始めます。
そして三週間後に悟りを開くことに成功しました。
シッダールタは「悟りを開いた人」という意味でブッタと呼ばれるようになり、1,000人を超す様々な身分の弟子たちにも恵まれました。
このブッタの教えをもとに成立した新宗教が仏教なんです。ここでできた宗教なんですね。
この教えが中国に渡った際に、ブッタを「仏陀」と漢字表記しました。それが日本に伝わり、「仏(ほとけ)」と呼ばれるようになったんですよ。だから「仏教」なんですね。
仏教とは?
ではいったい、そのブッタが説いた悟りとはどんなものだったのか?
ブッタはこう説きました。
権威や身分を捨てて自己を解放し、心の内面から苦悩を解いて、正しいおこないを実践すれば、煩悩を捨てることができ解脱できる。
まあこんな感じでしょうか。
この「権威や身分」というのはバラモン教やヴァルナ制といったものですね。権威や身分によって苦悩が起きると考えました。
現代でも「企業・役職」や「学歴」に対してコンプレックスを抱いている人がいますよね。ブッタはそういったものは悩みが増えるだけだから、気にすべきではないと説いたのです。
「心の内面から苦悩を解く」というのは、心の中で自分の言動を見つめ直すことです。これが仏教でいうところの「座禅(ざぜん)」ですね。
「正しいおこない」とは8つの行いがあり、「八正道(はっしょうどう)」と呼ばれています。
①正しく見る(正見) ②正しく考える(正思) ③正しく話す(正語) ④正しく行動する(正業) ⑤正しく生活する(正命) ⑥正しく努力する(正精進) ⑦正しく思いめぐらす(正念) ⑧心を正しく置く(正定)
この八正道は現代のような複雑化した社会で豊かな人生を送るために活かせる教えになっていますね。
仏教は権威や身分から解放されることを教義としていることから「反バラモン・反ヴァルナ」ということがわかりますね。
ジャイナ教
仏教成立と同時代にもう一つ、「反バラモン・反ヴァルナ」の考えからできた宗教がありました。
それがジャイナ教です。あまり日本人には馴染みのない宗教ですね。でもインド国内には今でも約400万人の信者がいるほどの宗教なんですよ。
創始者はクシャトリア出身のヴァルダマーナという人物で、30歳で出家した後、なんと13年間も苦行をおこなった後、ジャイナ教を開祖しました。
ジャイナ教とは?
SQ:仏教とジャイナ教の特徴で異なる点は何か?
ジャイナ教は、バラモン教やヴァルナ制などを否定したことから仏教と共通点があります。
しかし、ヴァルダマーナは解脱には「徹底した苦行によって魂を浄化すること。」という考えから、苦行を否定したブッタの仏教とは異なっていますね。
ジャイナ教では生き物の殺生を厳しく禁止する不殺生を教義に入れています。
これはあらゆる生物が対象になるので、腕にとまった蚊や道端の小さい虫も殺すことが許されなかったそうです。究極は水中に微生物も含まれるので水も飲めません。
なので、信者たちは命を奪う農業、畜産の仕事ができず、商業を主におこなっていました。
特に、歩いている時に虫を踏み殺さないようにするために、出歩く必要のない小売業や金融業に就く人が多いんだそうです。なのでインドにあるジャイナ教寺院は、そのような裕福な信者の寄付もあって装飾がすごい豪華だそうですよ。
仏教とジャイナ教を簡単にまとめて比較するとこんな感じです。
仏教とジャイナ教の今
現在インドではジャイナ教はおろか仏教徒の割合も1%以下と少ない状況です。
逆に後に登場するヒンドゥー教徒が大多数を占めており、このヒンドゥー教徒の弾圧などで仏教などはインドで衰退してしまいました。
仏教は本場のインドより東アジアや東南アジアに普及していますね。
ヒンドゥー教の芽生え
2つの新宗教はバラモン教の権威やヴァルナ制を否定した宗教でしたよね。
なので、バラモン教は権威回復のために信仰の幅を広げようとします。
その中で各地の民間信仰を吸収していき、土着化させていきます。
権威であったバラモン教が民間信仰と融合したことで、「バラモン教の大衆化」が起きたことで、バラモン以外の身分にも普及していったんですね。
それによってできた多神教宗教がヒンドゥー教なんです。
なので、、、
ヒンドゥー教 = バラモン教(+民間信仰)
となるため、ヒンドゥー教とは「大衆化されたバラモン教」ということになり、バラモン教も「仏教成立以前の古代ヒンドゥー教」と言うことができるんです。
ヒンドゥー教は多神教ですが、三位一体の最高神が存在します。
ブラフマー(創造神)、ヴィシュヌ(維持神)、シヴァ(破壊神)
特にインドではシヴァ神が人気ですね。
とにかくこの時代にヒンドゥー教が芽生え始め、インド史をつくっていくことになります。
まとめ
MQ:仏教とジャイナ教にはどのような共通点があるのか?
A:経済力をつけたクシャトリア身分が、バラモン教の権威やヴァルナ制を否定する考えから誕生した宗教である部分が共通点となっている。
今回はこのような内容でした。
次回はインドに統一国家が現れて文化が発展していきます。それではお楽しみに!
今回も最後まで読んでいただきありがとうございました!
「愚者は経験から学び、賢者は歴史に学ぶ。」by ビスマルク
この記事で使用した授業スライドのダウンロードはこちら↓
Xのフォローお願いします!
重要語句の解説や選択問題、ブログの更新を投稿しています。
ぜひX(旧Twitter)でフォローしてください!
・『世界史の窓』、世界史の窓 (y-history.net)
・木村 靖二 ・岸本 美緒 ・小松 久男・橋場 弦(2022)、『詳説世界史探究』、山川出版社
・木村 靖二 ・岸本 美緒 ・小松 久男(2017) 、『詳説世界史研究』、山川出版社
コメント