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『カンタベリ物語』

史料集
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概要

『カンタベリー物語』は、14世紀にイギリスの詩人チョーサーによって書かれた物語集です。

物語は、ロンドンからカンタベリー大聖堂への巡礼に向かう旅人たちが、道中の退屈しのぎにそれぞれの物語を語り合うという形式で進行します。

語り手は騎士、修道士、商人、学者など多彩で、彼らの語る物語は恋愛、風刺、道徳、冒険などジャンルも豊かです。

歴史的背景

14世紀後半のイギリスは、黒死病(ペスト)の流行や社会的動揺、教会の権威への疑問が高まっていた時代でした。

巡礼は宗教的義務であると同時に、信仰と現実の矛盾を浮き彫りにする場でもありました。

チョーサーはこうした時代の空気を巧みに作品に織り込み、登場人物たちの語りを通じて社会批評を行っています。

文化的背景

当時の文学はラテン語やフランス語が主流でしたが、チョーサーは中英語で物語を執筆しました。

これは英語文学の発展に大きく貢献した革新的な試みです。

また、物語の構成はイタリアのボッカチオによる『デカメロン』の影響を受けており、枠物語形式が採用されています。

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主な登場人物

旅の一団には、社会のさまざまな階層を代表する人物が登場します。

騎士:高潔で礼儀正しい戦士。物語の最初の語り手。

騎士の従者:若く魅力的な青年。

尼僧院長:上品で慈悲深い女性。

修道僧:世俗的で狩猟好きな聖職者。

托鉢僧:裕福な人々と親交を持つ聖職者。

商人・学僧・法律家・郷士・料理人・船長・医者・バースの女房など、個性豊かな面々が物語を彩ります[1]。

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著書の内容

総序

物語は春、巡礼者たちがロンドンの「タバード・イン」に集まり、カンタベリー大聖堂へ向かう旅を始める場面から始まります。

宿屋の主人ハリー・ベイリーが「旅の間に各自2話ずつ語り、最も面白かった話の語り手にご褒美を与える」という提案をし、全員が賛同します。

ここで登場人物たちの職業、性格、服装などが細かく描写され、彼らの物語に対する期待が高まります。

騎士の話

騎士が語るのは、アテネの大公テセウスと、囚われた若者パラモンとアルシーテの物語。

二人は同じ女性エミリーに恋をし、決闘を通じて彼女の愛を勝ち取ろうとします。

勝者アルシーテは事故死し、最終的にパラモンがエミリーと結ばれます。

騎士道、運命、神々の意志が交錯する哲学的な物語で、ボッカチオの叙事詩『テセイダ』が元になっています。

粉屋の話

騎士の高尚な物語の後、粉屋が語るのは庶民的で滑稽な話。

若い書生ニコラスが大工の妻アリスーンと恋仲になり、大工を騙して洪水が来ると信じ込ませ、屋根裏に避難させる間に密会します。

教会役員アブソロンが登場し、尻をキスさせられたり、熱した鋤で焼かれたりと、笑いと皮肉に満ちた展開が続きます。ファブリオー(滑稽譚)の典型です。

親分の話

粉屋の話に怒った荘園の管理者(親分)が語るのは、悪徳粉屋が学生たちに騙される話です。

粉屋は学生ジョンとアレンから粉を盗もうとしますが、逆に彼らに仕返しされ、娘と妻を寝取られてしまいます。

庶民の知恵と復讐が描かれた物語で、社会的階層の対立が浮き彫りになります。

料理人の話

料理人ロジェルが語るのは、放蕩者の若者が主人に追い出されるという短い物語です。

未完で終わっており、チョーサーが途中で筆を止めたと考えられています。

物語の断片から、庶民の生活や道徳観が垣間見えます。

法律家の話

ローマ皇帝の娘クスタンス姫が、陰謀によって海に流され、漂流の末にイングランドに辿り着きます。

彼女は現地の王と結婚しますが、再び陰謀に巻き込まれ、子どもとともに海に流されます。

奇跡的に再会を果たすという、信仰と忍耐を描いた物語です。

バースの女房の話

女性の支配欲をテーマにした物語。通りすがりの騎士が女性を襲い、死刑を宣告されますが、王妃から「女性が最も望むものを答えれば助ける」と言われ、1年の猶予を得ます。

最終的に老婆から「女性は支配権を望む」と教えられ、命を救われますが、老婆と結婚することになります。女性の知恵と力を描いた物語です。

托鉢僧・刑事・学僧・貿易商人・騎士の従者・郷士の話など

これらの話もそれぞれ、宗教的腐敗、恋愛、忠誠、奇跡、魔術などをテーマにしており、語り手の職業や性格が物語の内容に深く影響しています。

例えば、学僧の話では貧しい娘グリセルダが夫の過酷な試練に耐える姿が描かれ、貿易商人の話では老騎士が若妻に浮気されるという皮肉な展開が語られます。

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⑥ まとめ

『カンタベリー物語』は、中世イギリスの社会、宗教、文化を生き生きと描いた文学の宝石です。

多様な登場人物が語る物語は、当時の価値観や人間模様を映し出し、現代の私たちにも通じる普遍的なテーマを含んでいます。

歴史初心者でも楽しめる構成でありながら、深い洞察とユーモアに満ちた作品です。

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