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『赤と黒』

史料集
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概要

『赤と黒』はフランスの作家スタンダールが1830年に発表した長編小説です。

スタンダール

正式な副題は「1830年年代記」であり、作者はこの作品を通して同時代のフランス社会を描こうとしました。

主人公は貧しい大工の息子ジュリアン=ソレルです。

彼は知性と野心にあふれていますが、生まれの身分が低いため、それだけでは社会的成功を得ることができません。

そこで彼は聖職者の道を利用しながら上流社会へ入り込み、出世を目指します。

しかし恋愛や野心が複雑に絡み合い、やがて悲劇的な結末へと向かっていきます。

『赤と黒』は

出世物語、恋愛小説、心理小説、社会批判小説

といった複数の要素を持つ作品です。

現代風に言えば、「学歴と能力を武器にエリート社会へ挑戦する若者の物語」ともいえるでしょう。

歴史的背景

・ナポレオン時代の終焉

『赤と黒』を理解するには、まずナポレオン戦争後のフランス社会を知る必要があります。

1789年のフランス革命は「能力による出世」の道を広げました。

さらにナポレオン時代には、平民出身でも軍隊で活躍すれば高い地位につくことが可能でした。

実際にナポレオン自身も貴族ではなく、才能によって皇帝になった人物でした。

そのため多くの若者が「努力すれば社会を変えられる」と信じていました。

・王政復古と身分社会の復活

しかし1815年、ナポレオンが失脚するとブルボン王朝が復活します。

この時代を「王政復古」と呼びます。

王政復古下では革命以前の貴族やカトリック教会が再び強い影響力を持つようになりました。

能力よりも家柄や身分が重視される社会に戻りつつあったのです。

主人公ジュリアンは、まさにこの社会の犠牲者でした。

優秀であるにもかかわらず、低い身分ゆえに正当に評価されません。

その不満と焦りこそが物語全体を動かしていきます。

・七月革命との関係

『赤と黒』が出版された1830年は、パリで七月革命が起こった年でもあります。

民衆は再び自由と政治参加を求めて立ち上がりました。

スタンダールは、こうした激動の時代を背景に、「閉塞した社会の中で生きる若者の苦悩」を描いたのです。

文化的背景

・ロマン主義の時代

『赤と黒』が書かれた頃のヨーロッパでは、ロマン主義が広がっていました。

ロマン主義とは、

感情、個性、情熱、自由

を重視する文化運動です。

ジュリアンもまた激しい情熱を持ち、自分の運命を切り開こうとするロマン主義的な主人公です。

特に彼がナポレオンに強く憧れる姿には、英雄を理想化するロマン主義的特徴が表れています。

・写実主義の先駆け

一方でスタンダールは、現実社会を冷静に観察して描きました。

そのため『赤と黒』は後の写実主義文学にも大きな影響を与えた作品として評価されています。

理想や夢だけでなく、

権力、金、階級、世間体

によって動く人間社会をリアルに描いているのです。

この点で『赤と黒』はロマン主義と写実主義の橋渡しをする作品ともいわれています。

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主な登場人物

ジュリアン=ソレル・・・物語の主人公。貧しい大工の息子ですが、非常に頭が良く、ラテン語にも優れています。ナポレオンを崇拝し、社会的成功を強く望んでいます。誇り高く繊細な性格ですが、その野心が人生を大きく左右します。

レナール夫人・・・ジュリアンが家庭教師として仕えるレナール家の夫人。優しく純粋な女性です。当初はジュリアンに母性的な感情を抱きますが、やがて深い恋愛関係へ発展します。

ラ=モール侯爵・・・パリの有力貴族。ジュリアンの才能を認め、秘書として雇います。彼の存在はジュリアンが上流社会へ進出するきっかけとなります。

マチルド=ド=ラ=モール・・・侯爵の娘。誇り高く知的な貴族女性です。ジュリアンに強く惹かれますが、その恋愛は複雑で激しいものになります。

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著書の内容

第一部:地方都市での出世の始まり

物語はフランス東部の小都市ヴェリエールから始まります。

ジュリアンは大工の息子ですが、体力仕事を嫌い、本ばかり読んでいました。

特にナポレオンへの憧れは強く、いつか自分も偉大な人物になりたいと考えています。

彼は市長であるレナール氏の家で家庭教師として働くことになります。

これは身分の低い彼にとって大きなチャンスでした。

しかし家庭教師として暮らすうちに、レナール夫人との間に恋愛感情が芽生えます。

二人は秘密の関係になりますが、周囲に疑われるようになり、ジュリアンは町を離れることになります。

第二部:神学校での生活

地方を去ったジュリアンは神学校へ進みます。

当時、平民出身者が出世するには軍人か聖職者になるしかありませんでした。

しかしナポレオンの時代は終わっており、軍隊での立身出世は難しくなっています。

そのためジュリアンは聖職者の道を選びます。

ところが神学校では能力や努力よりも派閥や人間関係が重視されていました。

ジュリアンは周囲から嫉妬され、孤立していきます。

この経験を通して、彼は社会の偽善や権力構造を学んでいきます。

第三部:パリの上流社会へ

その後ジュリアンはラ=モール侯爵の秘書としてパリへ移ります。

ここで彼は貴族社会の華やかな世界に足を踏み入れます。

知性と努力によって侯爵から評価され、少しずつ成功への階段を上っていきます。

さらに侯爵の娘マチルドと恋愛関係になります。

マチルドは高貴な身分の女性でしたが、平民出身のジュリアンに強く惹かれます。

やがて彼女は妊娠し、結婚話も進み始めます。

これはジュリアンにとって夢のような大逆転でした。

第四部:転落と悲劇

しかし成功を目前にして、過去が彼を追い詰めます。

レナール夫人がジュリアンについて悪い評判を書いた手紙を侯爵に送ったのです。

侯爵は結婚に反対し始めます。

怒りに駆られたジュリアンは故郷へ戻り、教会でレナール夫人を銃撃します。

幸い彼女は命を取り留めますが、ジュリアンは逮捕され裁判にかけられます。

裁判では犯罪だけでなく、「身分の低い者が上流社会へ挑戦したこと」そのものが裁かれているようでした。

ジュリアンは最終的に死刑判決を受けます。

最後の場面で彼は自らの人生を振り返り、真実の愛がレナール夫人との関係にあったことを悟ります。

そして静かに死を受け入れるのです。

「赤」と「黒」の意味

題名の意味については諸説あります。

最も有名なのは、

・赤=軍服(ナポレオン時代の軍人)

・黒=聖職者の法衣

という解釈です。

つまり主人公が選ばざるを得なかった二つの出世の道を象徴しているのです。

また、

・情熱と野心

・愛と死

を象徴していると考える研究者もいます。

明確な答えが示されていない点も、この作品の魅力の一つです。

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まとめ

『赤と黒』は、一人の野心的な青年の成功と破滅を描いた物語です。

しかし本当に描かれているのは個人の恋愛ではなく、王政復古期フランス社会の矛盾でした。

ジュリアン=ソレルは能力に恵まれながらも、身分制度の壁に苦しみ続けます。

その姿は、革命によって広がった「能力主義」の理想と、旧来の身分社会との衝突を象徴しています。

また本作は、ロマン主義的な情熱と写実主義的な社会観察を兼ね備えた傑作でもあります。

だからこそ約200年を経た今でも、多くの読者を惹きつけているんです。

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